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アザミウマ防除エビデンス資料

アザミウマ防除 エビデンス資料

オアシスファーム町田 / 参考資料 / 作成:鈴木
本資料は防除判断の根拠となる学術・公的機関・メーカー資料をまとめたものです。農研機構・都道府県農業試験場・メーカー技術資料等を出典としています。

① アザミウマの世代更新・繁殖力
なぜ「間隔が長いと負ける」のか ― 数字で理解する繁殖速度
世代完了までの日数(卵→幼虫→蛹→成虫)

温度によって大きく異なる
ヒラズハナアザミウマ:25℃で約10日、20℃で約20日、15℃で約34日
ミカンキイロアザミウマ:25℃で約12日
ミナミキイロアザミウマ:25℃で約7日
ネギアザミウマ:25℃で16〜17日
→ ハウス内冬場(20℃前後)でも約20日で1世代。10日間隔散布はギリギリ追いつくラインになる。

出典:協友アグリ害虫図鑑、石川県農業試験場資料、施設園芸.com

1ヶ月での増殖倍率

約300倍(いちごテック社推計)
1匹のメスが一生に産む卵:150〜300個
成虫の寿命:20〜45日
ハウス内では冬でも休眠せず年中発生

出典:株式会社イチゴテック、協友アグリ、施設園芸.com

農薬が効きにくいステージ

卵と蛹には薬剤が届かない
・卵:葉や花の組織内部に1個ずつ産みつけられる(組織内なので農薬が浸達しない)
・蛹:地表に落下し土中で前蛹・蛹になる(農薬散布では接触できない)
・加害するのは幼虫と成虫のみ

出典:施設園芸.com、農家web、セイコーエコロジア

薬剤抵抗性が出やすい理由

世代交代が速いほど、農薬への抵抗性が発達するスピードも速い。同一系統の薬剤を繰り返し使うと、耐性を持つ個体が世代を重ねるごとに増えていく。IRACコードが同じ薬剤は同一系統とみなし、ローテーション管理が必須。

出典:セイコーエコロジア、農家web

1月9日→1月29日の20日間空きで何世代回ったか(町田の実態)
25℃・1世代10日の種(ヒラズハナ)
約2世代
20℃・1世代20日の種(ヒラズハナ冬場)
約1世代
ミナミキイロ(25℃・7日)
約2.8世代
産卵数150〜500個/匹の場合
×数百〜数千倍
→ 最短でも1世代以上が空き期間中に完了。この間に産まれた卵・蛹は次の散布まで生き延びる。

② 薬剤系統・作用機構(IRACコード別)
IRACコードとは:殺虫剤の作用機構を分類した国際的なコード。同じコードの薬剤は同じ作用点を持つため、同一コードを連用すると耐性が発達しやすい。異なるコードをローテーションすることで耐性リスクを分散できる。
薬剤名 IRACコード 系統名 作用機構 アザミウマへの特徴 マルハナバチへの安全日数
ベネビアOD IRAC 28 ジアミド系(シアントラニリプロール) リアノジン受容体に結合し筋収縮を引き起こす。カルシウムイオン濃度を狂わせる アザミウマ類・コナジラミ・アブラムシ・チョウ目に広域対応。浸達性あり。残効10〜14日 1日
ディアナSC IRAC 5 スピノシン系(スピネトラム) ニコチン性アセチルコリン受容体とGABA受容体のイオンチャンネルに作用。神経伝達に異常を起こす 有機リン・ネオニコ系に抵抗性を持つ害虫にも有効。卵・幼虫・成虫の全ステージに効果。収穫前日まで使用可 要確認(製品ラベル参照)
スピノエース IRAC 5 スピノシン系(スピノサド) ディアナと同系統(スピノシン)。作用機構は同じ ディアナと系統が同じため、ディアナを使った後にスピノエースを使っても耐性管理上の効果は薄い。温存する場合は意図的に別機会に使う 要確認(製品ラベル参照)
ファインセーブ IRAC 34 フロメトキン系(新規) ミトコンドリアの電子伝達系を阻害。既存系統とはまったく異なる新規作用機構 抵抗性アザミウマにも特効的。幼虫・成虫ともに有効。果実への薬害が少ない。マルハナバチへの影響小 影響小(製品ラベル参照)
プレスト
※農薬ではない
非農薬 葉面散布肥料(銀イオン・リン酸・カリ・微量要素) 殺虫成分なし。リン酸・カリ補給による株強化が目的 アザミウマへの直接的な殺虫・忌避効果は期待できない。コンサル方針で散布間隔の間に使用しているが、防除ローテーションの1枠としては機能しない。使用意図(株強化か別の根拠か)を確認推奨 影響なし(農薬でないため)
サフオイル 非IRAC 気門封鎖剤(物理的作用) 気門を塞いで窒息させる物理的作用。化学的な作用機構ではないため耐性が出ない 殺虫力は強くない。密度が高い状態では「減らす力」が弱い。補助的な使用が適切 影響なし
グレーシア乳剤(候補) IRAC 30 イソオキサゾリン系(新規) 昆虫の神経に作用。速攻的な殺虫効果 新系統で既存薬と作用点がかぶらない。ローテーション強化候補 要確認
モスピラン(候補) IRAC 4A ネオニコチノイド系(アセタミプリド) ニコチン性アセチルコリン受容体に結合し神経を異常興奮させる 速効性が高い。ただし耐性が出やすい系統。すでに抵抗性が発達している場合は効果が落ちる 要確認

ローテーション設計の考え方
IRACコードが異なる薬剤を交互に使う

同一IRACコードの薬剤を連続使用すると、耐性を持つ個体が生き残って次世代に耐性を伝えていく。アザミウマは世代交代が速いため、わずか数世代で耐性集団が形成される可能性がある。異なるコードの薬剤を交互に使うことで、どの系統にも耐性が集中しないようにする。

出典:セイコーエコロジア、農家web、minorasu

現状のローテーションとコードの確認
ディアナ(5)

ベネビア(28)

ファインセーブ(34)

グレーシア(30)候補

ベネビア(28)…
※ プレストは農薬ではなく葉面散布肥料のため、ローテーションの防除枠には含まれない。実質の散布間隔は農薬散布の間隔(10日)で評価する。
⚠ ディアナ(5)とスピノエース(5)は同系統。両方使っても耐性管理の効果は得られない。

③ 内部増殖 vs 外部侵入 ― 判別の根拠と方法

外部侵入が主因の場合に見られるパターン
飛来・侵入の特徴

アザミウマの飛翔能力は最大5m程度。露地からの飛来は主に開口部(天窓・側窓・出入口)から起こる。侵入直後は開口部付近の密度が高い。

出典:minorasu(スリップス対策記事)

粘着トラップで外部侵入を確認した場合の分布:開口部に近いほど捕獲数が多く、ハウス奥に向かって減少するという勾配が現れる。

内部増殖が主因の場合に見られるパターン
内部増殖の特徴

ハウス内で産卵・孵化サイクルが回り続けている場合、密度は開口部からの距離に関係なく全体に均一、または花の多いエリアに集中する分布になる。散布後に一時減るが戻る「じわ増え」のパターンが典型。

出典:奈良県農業研究開発センター防除マニュアル2024年5月版

ヒラズハナアザミウマは短日条件下で生殖休眠するが、加温ハウスでは冬でも繁殖し続ける。

粘着トラップによる侵入経路判別の方法(公的機関資料より)
粘着トラップ(青色)はアザミウマのモニタリング手段として農業試験場・普及センターで広く推奨されている。ただし駆除ではなくモニタリングが目的であり、トラップで増加を止めることはできない。
なぜ青色か
アザミウマは青色に強く引き寄せられる習性がある。黄色トラップより青色の方が誘引数が多い傾向がある。

設置・交換の目安
週1回同じ曜日に交換・カウント。捕獲数を記録して前週比較することで増減のトレンドを把握する。

マルハナバチへの影響
マルハナバチも青色に引き寄せられる。モニタリング目的の少数設置(9枚程度)であれば受粉への実質的影響は低い。設置高さをベッド高さから外すことで接触リスクを減らせる。

判別の判断基準:側窓・天窓付近のトラップのみ数値が高い→外部侵入が主因。ハウス全体に均一・または花の多い列に集中→内部増殖が主因

④ 各薬剤の詳細エビデンス
ベネビアOD(IRAC 28 / ジアミド系)
ジアミド系特有のチョウ目害虫、ハエ目害虫に対する優れた効果に加え、コナジラミ類、アザミウマ類、アブラムシ等にも卓越した効果を示す。有用昆虫への影響は少なくIPMに適合している。

出典:三井化学クロップ&ライフソリューション 技術資料

作用機構:リアノジン受容体に結合し筋小胞体からカルシウムイオンを放出させ、筋収縮を起こして活動停止・死亡させる。昆虫のリアノジン受容体に選択的に作用し、ヒトの受容体には反応しないため人への安全性が高い。
マルハナバチへの安全日数:散布翌日(1日)から再導入可能

ディアナSC(IRAC 5 / スピノシン系)
有機リン系、カーバメート系、ピレスロイド系、ネオニコチノイド系など既存の殺虫剤に抵抗性を発達させた害虫に対しても効果がある。各生育ステージ(卵・幼虫・成虫)に高い効果を示す。

出典:農家web 農薬データベース

作用機構:ニコチン性アセチルコリン受容体とGABA受容体のイオンチャンネルに作用し、神経伝達に異常を起こす。土壌放線菌(Saccharopolyspora spinosa)が産生する活性物質スピノシンに由来。
重要:スピノエース(スピノサド)と同系統(IRAC 5)のため、両方を組み合わせてもローテーション効果が得られない点に注意。

ファインセーブ(IRAC 34 / フロメトキン系)
ミトコンドリアの電子伝達系を阻害することにより殺虫作用を示すという従来の系統ではない効果を持ち、抵抗性を含むアザミウマに対して特効的とも言えるほどの非常に高い防除効果を示す。ミツバチ、マルハナバチ、カブリダニ類等の天敵や有用昆虫に対して影響が小さい。

出典:農家web

他のアザミウマ用薬剤と比べて薬害が少なく、果実にシミがつくこともないという農家からの評価あり。いちご栽培での防除ローテーションに複数回組み込まれる事例が増えている。
現在スポット散布でのみ使用→全体散布への昇格を検討する価値がある。

⑤ 主な参考出典
・農研機構「赤色LEDによるアザミウマ類防除マニュアル」
・農研機構「赤色光を昼間に作物に照射し、ミナミキイロアザミウマの誘引を抑制する」(2015-2017)
・奈良県農業研究開発センター「促成イチゴ栽培における難防除害虫防除マニュアル」(2024年5月)
・長野県佐久農業農村支援センター「天敵を活用した夏秋どりいちごにおけるアザミウマ類防除マニュアル」
・住友化学株式会社「新規殺虫剤スピネトラム(ディアナ)の開発」農薬誌2012
・三井化学クロップ&ライフソリューション「ベネビアOD技術資料」
・協友アグリ「害虫図鑑 アザミウマ類の生態と防除のポイント」
・株式会社イチゴテック「いちごのアザミウマ(スリップス)とは?」
・セイコーエコロジア「アザミウマ類からイチゴを守る対策とは?」「虫ブロッカー赤製品情報・導入事例」
・石川県農業試験場防除室「ネギアザミウマ防除資料」(2017)
・柴尾学「野菜のアザミウマ類の発生生態と防除」植物防疫第73巻9月号(2019)

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