いちごハウスで「糖度が上がらない」「果実が小さい」「着色が揃わない」——こうした問題の原因として、真っ先に疑うべきが温度管理のズレじゃ。肥料でも品種でもなく、温度が1〜2℃違うだけで、果実の甘さと大きさは確実に変わる。
しかし「温度を適正に保つ」とは、単に「暑くなりすぎないようにする」ことではない。昼と夜では管理の目的がまったく異なり、さらにCO2の有無によっても最適な温度帯が変わってくる。本記事では昼夜の適正温度の根拠・高すぎた場合・低すぎた場合に起きること・1日の時間帯別の制御フローを、現場ですぐ使えるレベルで解説する。「なんとなく設定している」から「なぜその温度なのかを説明できる」へ——それが今日のゴールじゃ。
温度管理の前提——4要素は独立していない


いちごの光合成と生育は「光・CO2・温度・水(飽差)」の4要素が組み合わさって決まる。これらは独立した変数ではなく、互いに強く連動しておる。制御の基本は「変えられないものを起点に、変えられるものを最適化する」という考え方じゃ。
- ① 光(日射):人工的に強くできない。毎秒変化する。すべての制御判断の起点。日射量に応じて温度・CO2・換気の設定を変えることが本質
- ② 温度:暖房・換気・カーテンで制御できる。光合成速度・呼吸速度・糖の転流に直接影響する
- ③ CO2:発生器で制御できる。換気が閉まっている時間帯にのみ有効に蓄積できる。光と温度が整った状態で最大の効果を発揮
- ④ 飽差:温度・湿度・換気・灌水の結果として現れる指標。直接操作する変数ではなく、①〜③が適切に管理された「結果」として安定する


昼間の適正温度——「20〜25℃」の根拠と「30℃まで許容」の条件


昼間の温度管理における基本的な考え方は以下の通りじゃ。
| 温度帯 | 状態 | 起きること |
|---|---|---|
| 15℃以下 | ❄️ 低温障害域 | 光合成速度が大幅に低下する。花粉の発芽率が下がり受粉不良につながる。生育が著しく遅れる |
| 20〜25℃ | ✅ 光合成適温 | 外気CO2条件下での最適域。果実品質・収量が最も安定する |
| 25〜30℃ | ⚠️ 許容(CO2条件付き) | CO2を800〜1000ppmに高めた条件下では30℃でも光合成が増加する(Wada et al. 2010)。CO2施用中かつハウス密閉が前提 |
| 30℃超 | ❌ 高温障害域 | 光合成・呼吸のバランスが崩れ純光合成量が低下。軟果・早期着色・小玉化・過熟果が発生しやすくなる。35℃超では奇形果が発生する |


「30℃まで許容」の意味と前提条件


CO2を施用しているかどうかで、換気開始温度の判断が変わる。この違いを正確に理解しておくことが重要じゃ。
| 状況 | 換気開始温度 | 理由 |
|---|---|---|
| CO2発生器あり・施用が機能している | 28〜30℃ | CO2高濃度下では30℃でも光合成が増加するため、密閉時間を長くしてCO2を蓄積する方が有利 |
| CO2発生器なし | 20〜23℃ | 密閉し続けると光合成でハウス内CO2が外気以下に低下する(CO2飢餓)。早めに換気して外気CO2(420ppm)を取り込む方がよい |
| CO2発生器あるが換気との連動未設定 | 25℃(暫定) | まず換気開始時にCO2施用を止める連動設定を整えることが優先。確認後に換気開始温度を引き上げる |
夜間の適正温度——「6〜10℃」が糖度を決める理由


夜間の温度管理は「昼間に作った糖を果実に届けるための時間」の管理じゃ。この認識が抜けていると、昼間の管理がどれだけ適切でも果実品質に結びつかない。
| 夜温帯 | 状態 | 起きること |
|---|---|---|
| 12℃以上 | ❌ 高温障害域 | 呼吸量が増え、昼間に作った糖を夜間に消費しすぎてしまう。結果として果実の糖度が上がりにくくなる。燃料コストも無駄に増える |
| 6〜10℃ | ✅ 果実生長適温 | 根の活動が維持され、果実への糖転流・肥大が正常に進む。糖度・サイズともに安定する |
| 5〜6℃ | ⚠️ 生育緩慢 | 根の活動が低下し、糖の転流速度が落ちる。継続すると糖度低下・果実サイズ縮小につながる |
| 5℃未満 | ❌ 生育停止域 | 根の活動と果実への糖転流が著しく低下。0℃以下では花・実の凍害が発生する |


1日の時間帯別 制御フロー——晴天日のスタンダード


🟢 6〜10時:CO2優先フェーズ——1日の光合成の約60%がここで決まる
いちごの光合成量は午前中に集中する。この時間帯はハウスを密閉してCO2を施用し、光合成を最大化する。CO2高濃度(800〜1000ppm)が確保できている前提で、温度は30℃まで許容する。カーテンは全開にして光を最大限取り込む。
- 温度:30℃まで許容(CO2施用・密閉が前提)
- CO2:フル稼働(目標800〜1000ppm)
- 換気:全閉(環境制御装置の時間帯設定で固定)
- カーテン:全開(光最優先)
🟡 10〜12時:換気移行フェーズ——CO2を止め、ゆっくり換気へ
CO2施用をタイマーで停止し、換気を段階的に開始する。ここで最も重要なのは「開度の上昇スピードを緩やかにすること」じゃ。一気に全開にすると乾燥した外気が急激に流入し、飽差がスパイクする。ハウス環境制御装置の「開度スピード制限」機能で開度の上昇速度を制限するのが鉄則じゃ。
- 温度:25〜30℃(換気で調整)
- CO2:停止
- 換気:段階的に開始(スロー開放)
🔴 12〜15時:高温管理フェーズ——カーテン遮光を活用
温度が最も高くなりやすい時間帯じゃ。換気に加えてカーテン遮光(遮光率30〜40%)を組み合わせることで温度上昇を抑制する。ただし遮光を使うのは「午後12時以降・気温27℃超・強日射の3条件が重なる場合」に限定することが重要じゃ。
- 温度:25〜28℃を目標
- 換気:継続(30℃超で段階的全開)
- カーテン:強日射・27℃超なら3〜4割閉め
🔵 15〜18時:夕方フェーズ——地温確保と灌水の締め切り
カーテンを開けて日光を取り込み、培地の温度(地温)を上げておく。地温が高いと夜間の温度低下が緩やかになり、暖房の負荷も下がるのじゃ。灌水は遅くとも15時までに完了させること。夕方以降の灌水は夜間の湿度上昇・飽差悪化の原因になるのじゃ。
- カーテン:全開(地温確保)
- 換気:徐々に閉じる
- 灌水:15時までに完了
🟣 18時〜翌6時:夜間フェーズ——暖房と循環扇で飽和を防ぐ
暖房で最低気温6〜8℃以上を維持する。循環扇でハウス内の空気を攪拌し、水蒸気の飽和状態(飽差0.5g/m³未満)を防ぐ。特に明け方(日の出前の最低温度帯)は最も飽和しやすいため、深夜以降の循環扇強化が有効じゃ。
- 温度:暖房最低6〜8℃以上
- 循環扇:稼働(深夜〜明け方を強化)
- 保温カーテン:使用


段階換気の「落とし穴」——温度設定だけでは不十分な理由


段階換気の設定には2種類の設定が必要じゃ。この2つはまったく別物であり、両方セットで行わないと効果が出ない。
| 設定の種類 | 何を制御するか | 具体的な設定例 |
|---|---|---|
| 温度段階設定(変温管理) | 何℃になったら何%開けるかという目標開度 | 25℃→20%、28℃→50%、30℃→100% |
| 開度上昇スピード設定(リアルタイム開度制限) | 1回あたりどのくらいの速さで開度を変化させるかというスピード | 「5分ごとに最大10%ずつ開度を上昇させる」のように変化速度を制限する |
コンサルタントへ依頼する際は「換気開始温度を変えてほしい」だけでなく「換気を開始する際の開度の上昇スピードを緩やかにする設定(スロー開放)を入れてほしい」と具体的に伝えることが重要じゃ。この2点はセットでないと段階換気の効果が出ないのじゃよ。
まとめ——温度管理とは「時間帯と連動要素を読む技術」


次回は「換気・飽差管理編」——段階換気の詳細設定・飽差スパイクを防ぐ方法・夜間の飽和状態の原因と対策を解説します。




