いちごを愛するすべての諸君。
いちごを甘く、大きく育てるために農家が毎日向き合っているもの——それは肥料の種類でも水やりの量でもなく、「EC」と「pH」という2つの数字だと聞いたら、驚くだろうか。
ECとpHは、いちごが養分を吸収できるかどうかを左右する、栽培の根幹にある指標じゃ。しかしこの2つを管理するにあたって、見落とされがちな「スタートライン」がある。使う水のEC、土そのものののEC、そして培地の品質——ここを整えなければ、どれだけ丁寧に養液を調整しても思うような結果は出ない。本記事では、いちご博士とオアシスくんの対話を通じて、EC・pH管理の「なぜ」を基礎からわかりやすく解説していく。
目次
ECとpHって、そもそも何?——数字が示す「いちごの食べられる環境」

博士、ECとpHをちゃんと管理しなきゃいけないって聞いたんですけど……正直、ECって何なのかよくわかっていなくて。

よし、まずそこから説明しよう。ECとはElectrical Conductivity——電気伝導度の略じゃ。水がどれだけ電気を通すかを示す数字で、単位はmS/cm(ミリジーメンス)を使う。

電気を通す?……肥料と何の関係があるんですか?

純粋な水は電気をほとんど通さない。でも肥料などの養分が溶け込むほど電気を通しやすくなる。つまりECの値が高い=養分が濃い、ということなんじゃよ。

じゃあECが高いほど肥料が効いてる、ってことですか?高ければ高いほどいいんじゃないの?

そう思うじゃろ?でもそれが大間違いなんじゃ。ECが高すぎると、根が浸透圧の影響で水分を逆に吸えなくなる。いわゆる「根やけ」という状態で、葉先が枯れたり果実が小さくなったりする。反対に低すぎると養分不足で葉が黄化し、糖度も上がらない。ECは高すぎず低すぎず、ちょうどいい濃さを保つことが大事なんじゃ。

わかりました!じゃあpHっていうのは?

pHは水溶液の酸性・アルカリ性の度合いを示す指標じゃ。0〜14のスケールがあって、7が中性、それより低いと酸性、高いとアルカリ性になる。養液なら5.5〜6.2が理想じゃ。

え、肥料をちゃんと溶かしても、pHが悪いと吸えないんですか?

そうなんじゃ。たとえばpHが7を超えてくると、鉄やマンガンが水に溶けにくい形になってしまう。肥料タンクには鉄がちゃんと入っているのに、いちごは鉄欠乏を起こして葉が黄化する——という不思議な現象が起きる。pHの管理はECと同じくらい重要なんじゃよ。
栽培を始める前に「土」と「水」を測れ——スタートラインを整えることが最重要

栽培を始めるにあたって、まず何から確認すればいいですか?

土のECと、使う水のEC・pHじゃ。ここを確認せずにスタートすると、あとで痛い目を見る。
① 土そのもののEC——作付け前に必ず確認する
前作で使った肥料の残りカスや、長年の施肥で蓄積した塩類が土に残っていると、土そのもののECが高くなっている。そこにいちごの苗を植えると、根が最初から傷んで活着不良や生育の遅れにつながる。
土壌ECの目安は以下の通りじゃ。
| EC値 | 判定 |
|---|---|
| 0.3 mS/cm 以下 | 養分不足気味 |
| 0.3〜1.0 mS/cm | ほぼ適正範囲 |
| 1.0〜2.0 mS/cm | やや高め。注意が必要 |
| 2.0 mS/cm 以上 | 塩類集積の可能性。対処が必要 |
ECが高い畑には、たっぷりの灌水で塩類を洗い流す、天地返しをする、土壌診断を依頼して肥料設計を見直すなどの対処が必要じゃ。
② 水のEC——水源によって「スタートライン」が変わる

水のECって、どういうことですか?

養液栽培では水に肥料を溶かして与えるじゃろ。でもその水自体がすでにECを持っていたら、それが上乗せされる。水源のECを知らずに肥料を加えると、設定した濃度とまったく違う養液になってしまうんじゃ。
水源別のECの目安はこうじゃ。
| 水源 | EC(目安) | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 水道水 | 0.1〜0.3 mS/cm | 比較的安定。地域差あり |
| 井戸水 | 0.2〜1.0 mS/cm以上 | 地質により大きく変動。問題が起きやすい |
| 河川水・ため池 | 0.05〜0.3 mS/cm | 季節・降雨で変動する |
| RO水(逆浸透膜処理水) | ほぼ0 mS/cm | 不純物をほぼ除去した純水に近い状態 |

井戸水が一番やっかいそうですね。何がマズいんですか?

井戸水は地下の地質をそのまま反映する。カルシウムやマグネシウムが多い「硬水」の地域では、ECが0.5〜1.0 mS/cm以上になることもある。さらにpHが7.5〜8.5と高いケースも珍しくない。

高いpHの水で養液を作ると、どうなるんですか?

pH矯正剤をたくさん使わなければならずコストがかさむ。さらに井戸水に多い重炭酸イオンがカルシウムと結合して白い沈殿を作り、点滴ノズルや配管に詰まっていくんじゃ。一番確実な対処はRO膜(逆浸透膜)フィルターの導入じゃ。不純物がほぼゼロになり、思い通りの養液が作れるようになる。

水と土を整えることが、スタートラインなんですね。

そうじゃ。水源のEC・pHを知らずに栽培を始めるのは厳禁じゃ。
培地はヤシ繊維(ヤシ繊維)がよく使われる——でも「洗浄済み」かどうかで大違い

高設栽培の培地によく「ヤシ繊維」って書いてあるんですけど、これって何ですか?

ヤシの実の外皮(繊維層)を加工した培地じゃ。ヤシジュースや果肉を取り出した後の廃材を再利用しているから、環境負荷も低い。いちごは過湿も乾燥も嫌う繊細な根を持つが、ヤシ繊維は保水性と通気性を両立できる——それがいちご高設栽培に広く使われる理由じゃな。

すごくよさそうですね。買ってきたらすぐ使えますか?

ちょっと待て、そこが一番重要なポイントじゃ。ヤシの外皮にはもともと大量の塩分・カリウム・ナトリウムが含まれておる。この処理が不十分な「未洗浄」のものをそのまま使うと、大変なことになる。

どんなことが起きるんですか?

水分を含んだ途端に余剰カリウムやナトリウムが溶け出して、培地のECが急上昇する。定植したてのまだ弱い根がその中にあったら、根やけを起こして最悪枯れてしまう。定植直後のトラブルで多いのが、実はこの「未洗浄ヤシ繊維培地」が原因なんじゃ。

じゃあ洗浄済みのものを選べばいいんですね。どうやって見分けますか?

ラベルに「RHP認証」や「プレバッファード(Pre-buffered)」と書いてあるものを選ぶのが基本じゃ。RHP認証はオランダ発の品質認証で、EC・pH・衛生基準をクリアした製品にしか付かない。確認できない製品を買ってしまった場合は、自分でバッファリング処理——カルシウムマグネシウム溶液に12〜24時間浸けて塩類を洗い流す処理——をしてから使うことじゃ。
生育ステージに合わせてECを変える——定植期から収穫期まで

水も土も培地も整えた。やっと養液の管理ですね!ECはずっと同じ値でいいですか?

いちごの生育ステージによって必要な養分量が変わるから、ECも変えていく必要がある。こんな感じじゃ。
| 生育ステージ | 推奨EC(mS/cm) | 理由 |
|---|---|---|
| 定植直後〜活着期 | 0.5〜0.8 | 根が弱い。薄めで活着を優先する |
| 旺盛生育期 | 0.8〜1.2 | 株を充実させる。緩やかに上げていく |
| 花芽分化〜開花期 | 1.0〜1.5 | リン・カリ重視の処方に切り替える |
| 収穫期 | 1.2〜1.8 | 糖度を上げるためやや高めに設定する |
| 夏季高温期 | やや低め | 蒸散が激しく根の負担が増すため下げる |

収穫期にECを高くするのはなぜですか?

ECを少し高めにすると、植物がやや「ストレス」を感じて糖分を蓄えやすくなる。甘いいちごにするための技じゃな。ただし高すぎると逆効果になるから、加減が大事じゃ。
また、養液栽培ではドレン(排液)のECを測ることも非常に重要じゃ。給液量の15〜25%程度を排液として外に出し、そのECを測ることで培地の中の状態を把握できる。ドレンECが給液ECより大幅に高ければ塩類が溜まっているサイン、低ければ養分が薄すぎるか給液量が多すぎるサインじゃ。
pH管理とよくあるトラブル——数値が崩れると肥料が無駄になる

pH管理のコツを教えてください。

給液のpH目標は5.5〜6.2じゃ。下げたいときはリン酸や硝酸、上げたいときは水酸化カリウムを使う。毎日給液前に必ず測ること。pHは放っておくとじわじわずれていくからな。

pHがずれるとどんな症状が出ますか?

pHが7以上になると鉄・マンガン・ホウ素が吸収されにくくなる。典型的なのが鉄欠乏による葉の黄化じゃ。新葉が葉脈を残して黄色くなる。肥料タンクには鉄が入っているのに、pHのせいで吸えないという状態じゃな。反対にpH5.0を下回ると、アルミニウムや鉄が過剰に溶け出して根が傷む。5.5〜6.2の範囲から外れたら早めに対処することが鉄則じゃ。
よくあるトラブルと対処法をまとめるとこうなるのじゃ。
| 症状 | 考えられる原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 葉先・葉縁が枯れる | EC過多(根やけ) | 薄い養液で多めに灌水して塩類を洗い流す |
| 新葉が葉脈を残して黄化 | pH高すぎ→鉄欠乏 | pHを下げる。鉄キレート剤を添加 |
| 定植直後にECが急上昇 | 未洗浄ヤシ繊維培地の残留塩類 | バッファリング処理を徹底する |
| 点滴ノズルが詰まる | 硬水由来の炭酸カルシウム沈殿 | RO膜の導入。酸で定期洗浄 |
| 測定値が安定しない | 電極の汚れ・校正不足 | 電極を洗浄・校正する |
まとめ——「水源から排液まで」流れで管理する

整理しよう。EC・pHの管理は「養液タンクだけを見る」のではなく、水源→培地→養液→ドレンという一本の流れで考えることが大事じゃ。スタートラインの水と土を整え、培地の品質を確認し、毎日の測定と記録を続ける——この積み重ねが、安定した収量と甘いいちごを生み出すのじゃよ。

土と水のスタートラインを整えて、流れで管理する——これがEC・pH管理の本質なんですね。今日から記録つけます!

うむ。いいいちごを作れよ。🍓





