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受粉の主役はハチだけではない。いちごの花を巡る金緑色の助っ人「ビーフライ」の真実

受粉はハチだけじゃない・助っ人「ビーフライ」の見出しと、いちごの花のビーフライを見守るいちご博士とオアシスくん
刺す針を持たない受粉の助っ人、ビーフライ。

いちごを愛するすべての諸君。

秋が深まり、ハウスの株元から白い花がひとつ、またひとつと顔を出し始めた。いちごの一年が、静かに「実り」の章へと移る合図だ。

この花を実に変えるのは、受粉という仕事である。多くの者は「受粉といえばミツバチ」と信じ、そしてハエと聞けば眉をひそめる。だが、それは半分しか真実を見ていない。いまハウスの中では、刺す針を持たない金緑色の小さなハエが、ミツバチの手が届かない時間と場所で花を巡っているのだよ。

私自身、かつては「ハチを入れておけば受粉は済む」と考えていた。曇りの日が続いた冬、花はあるのにハチが巣箱から出てこない。その結果、形の崩れた実が並んだ。あれは運ではなく、受粉の担い手を一つに頼った管理の隙だった。

この記事では、ビーフライという受粉の助っ人の正体と、その力を引き出すための管理の要点をお伝えする。読み終えたとき、ハウスを飛ぶ一匹のハエが、少し違って見えるはずだ。

オアシスくん
オアシスくん

博士、ハエで受粉って本当なんですか? ちょっと不衛生なイメージがあるんですが……。

いちご博士
いちご博士

名前だけで判断するのは早計だな。まずは、その素性から確かめようではないか。

1.ビーフライとは何者か

1.1 金緑色に光る「小さな運び屋」

ビーフライの正体は、ヒロズキンバエという体長5〜9mmほどのハエだ。体はタマムシに似た金緑色に光る。日本でも全国に、特に海岸の近くに多く暮らしている、ありふれた種である。

いちごの受粉用としては、医療用のハエの幼虫を生産する専門の会社が育て、「ビーフライ」という商品名で販売している。届くのは成虫ではなく、木くずと一緒にパックに詰められた「さなぎ」だ。ハウスの中で羽化させ、花へ送り出す。いわば、受粉の担い手を「旅立ちの前」から迎え入れる仕組みなのだよ。

1.2 蜜だけを求める「軽い足取り」

ビーフライは花の蜜を餌にする。その途中で体に花粉がつき、花から花へと運ばれる。体が軽く、花を傷つけることがない。この「軽さ」が、のちに述べる実の形に関わってくる。

いちご博士
いちご博士

見た目で敬遠されがちだが、その正体は専門の施設で育てられた、花粉の運び屋なのだよ。

オアシスくん
オアシスくん

さなぎで届いて、ハウスで羽化させるんですね。イメージが変わりました!

オアシスくん
オアシスくん

でも、ミツバチがいればそれで十分じゃないんですか?

いちご博士
いちご博士

鋭い問いだ。ミツバチは優秀な働き手だが、働ける「天気」と「気温」に条件があるのだよ。

2.ミツバチとの違いが、受粉の「穴」を埋める

2.1 曇りの日も働く「紫外線いらず」

ミツバチは太陽の紫外線を頼りに飛ぶ。そのため曇りや雨の日、紫外線を通しにくいフィルムを張ったハウスでは動きが鈍る。ビーフライは活動に紫外線を必要としない。日照の少ない冬の日でも、花へ向かうことができる。

2.2 「10〜35℃」という広い守備範囲

ミツバチがよく働くのは15〜25℃とされる。一方のビーフライは10〜35℃で活動する。冷え込む朝も、日中に気温が上がるハウスでも、守備範囲が広い。ミツバチが巣にこもる時間帯を、ビーフライが受け持つ。二者は競争相手ではなく、互いの穴を埋める「交代要員」なのだよ。

2.3 「過剰訪花」を防ぎ、形を守る

花の数が少ない時期に、ミツバチが同じ花へ何度も訪れることがある。これを過剰訪花という。花が傷つき、受粉にむらが出ると、実は形が崩れてしまう。品種によっては、この影響が出やすいものもある。体の軽いビーフライは花を傷つけにくく、こうした奇形果を減らす手段になる。

2.4 刺さないという「安心」

ビーフライには毒針がない。いちご狩りでハウスを訪れる人が、刺される心配をしなくてよい。これは見過ごされがちだが、人が集まる農園にとっては大きな価値だ。

ミツバチ ビーフライ
活動する温度 15〜25℃ 10〜35℃
紫外線 必要(曇天・雨天で鈍る) 不要
毒針 あり なし
花への負担 過剰訪花で傷むことがある 軽く、花を傷つけにくい
働ける期間 巣箱で1シーズン 成虫の寿命は約2週間(7〜10日ごとに補充)
ミツバチとビーフライの違い(農研機構ほか「ビーフライ」利用マニュアルをもとに作成)

2.5 「よく働く」からこそ、数と時間の調整が要る

受粉の担い手には、マルハナバチという選択肢もある。彼らはよく働くが、花の少ない時期には、その働きが花の数に対して強すぎることがある。同じ花に何度も訪れる過剰訪花は、花を傷め、実の形を崩す原因になる。そのため、花の数や訪花の様子を見ながら、「何匹を外へ出すか」「何時間働かせるか」を調整する必要があるのだよ。

では、ミツバチに任せればよいのか。ここにも、必要な時期に確保できるかという現実がある。花粉交配用ミツバチの供給不足は農業の課題となっており、農林水産省も不足に備えた体制を整えている。受粉昆虫は、性能だけを比べて選べるものではない。価格や納期、今その農園で手配できるかまで含めて、段取りを組む必要がある。

2.6 オアシスファームでは、実がなり始めるまでの「つなぎ役」に

オアシスファームでも、マルハナバチの放飼数や活動時間を細かく調整する負担を考え、ミツバチを使いたいという事情がある。しかし今は、ミツバチの不足による入手の難しさや価格が導入の壁になっている。一方、ビーフライは今回の時期に手配できる。そこで、当園ではいちごの実が実際になり始めるまではビーフライを使い、そのタイミングでマルハナバチへ切り替える方針だ。

これは、どの農園でも同じ時期に切り替えるべきだという意味ではない。当園の栽培の進み具合と調達事情を踏まえた使い分けである。ビーフライを「ハチの代用品」として一括りにせず、必要な時期をつなぐ働き手として迎えるのだよ。

いちご博士
いちご博士

受粉の担い手を一つに頼るのは、橋を一本の柱で支えるようなものだ。柱は多いほど揺るがない。

オアシスくん
オアシスくん

ミツバチが休んでいる間も、ビーフライが花を回ってくれるんですね!

オアシスくん
オアシスくん

さなぎをハウスに置いておけば、勝手に出てくるんですよね?

いちご博士
いちご博士

愚問だな。置き方ひとつで、羽化する数は何倍も変わるのだよ。

3.羽化は「置き場所」で決まる

3.1 地面は「待ち伏せの場」

さなぎのパックを地面や畝の上に直接置くと、歩き回るクモやアリに食べられてしまう。ある試験では、吊り下げたさなぎの羽化率が約90%だったのに対し、畝の上に置いたものは約13%にとどまった。さなぎは高い台の上に置くか、吊るす。これが鉄則だ。

3.2 温度は「羽化の時計」

さなぎが羽化するまでの日数は、温度で大きく変わる。保温した場合、半数が羽化するまでに25℃で約7日、20℃で約10日、15℃では約17日かかったという報告がある。10℃を下回る冷え込みに長く当たると、1か月以上かかることもある。

反対に、暑すぎてもいけない。40℃を超える高温に数時間さらされると、さなぎのまま死んでしまう。直射日光の当たる場所に置くのは厳禁だ。寒い時期には、専用の加温パネルと発泡スチロール箱を組み合わせた「羽化促進装置」を使い、30℃前後に保って確実に羽化させる方法もある。

3.3 黒くなったら「もうすぐ」の合図

さなぎが黒っぽく色づいてきたら、羽化が近いしるしだ。羽化した成虫は自ら花へ飛んでいく。人が手を貸す必要はない。

さなぎのパックを日陰の高い台に置き、地面のアリやクモから守っている概念図
さなぎは地面に置かず、日陰の高い場所へ。畝の上に置くと羽化率が大きく下がる。
いちご博士
いちご博士

さなぎは、まだ羽を持たぬ旅人だ。旅立ちの日まで、敵と暑さから守るのが我々の役目なのだよ。

オアシスくん
オアシスくん

高いところ、日陰、そして温度。この3つを守ります!

オアシスくん
オアシスくん

一度入れたら、シーズン中ずっと働いてくれるんでしょうか?

いちご博士
いちご博士

彼らの命は短い。だからこそ、途切れさせない段取りが要るのだよ。

4.力を引き出すための「三つの約束」

4.1 寿命は2週間、だから「リレー」で入れる

ビーフライの成虫の寿命は、およそ2週間だ。受粉の効果を途切れさせないためには、7〜10日ごとに新しいさなぎを入れ続ける必要がある。目安は、ビーフライだけで受粉させる場合で100㎡あたり300匹、ミツバチと組み合わせる場合で150匹ずつだ。前の世代が働いているうちに、次の世代を羽化させる。受粉はリレー競技なのだよ。

見方を変えれば、これは利点でもある。巣箱を一シーズン置くミツバチと違い、花の多い時期やミツバチが動きにくい時期など、必要なときだけ使うことができる。

4.2 農薬の選び方は「仲間を守る判断」

ビーフライは、ミツバチには影響の小さい農薬でも弱ることがある。殺虫剤の中には、散布から3週間たっても成虫に影響が残るものがある。くん煙タイプの殺虫剤も影響が大きい。一方で、うどんこ病対策に使う硫黄のくん煙は、羽化にも活動にも悪い影響を与えないと確かめられている。

害虫を防ぐ判断は、同時に受粉の仲間を守る判断でもある。薬剤を選ぶときは、その影響まで確かめてから使いたい。

4.3 ハウスを清潔に保つ「誘惑の除去」

落ちて傷んだ実や、動物の死骸などがハウスに残っていると、ビーフライはそちらへ引き寄せられ、花を訪れなくなる。ハウスの中を片付けておくことは、見た目の問題ではない。受粉の効率そのものを左右する管理なのだ。

いちご博士
いちご博士

補充、薬剤、清潔。どれか一つが欠ければ、花は実にならぬ。受粉は虫任せではなく、人の段取りで決まるのだよ。

オアシスくん
オアシスくん

次のさなぎを頼む日を、カレンダーに入れておきます!

まとめ|一粒の形は、花を巡る小さな羽音から始まる

ビーフライは、刺さず、曇りの日も働き、花を傷つけない受粉の助っ人だ。その力を引き出すかどうかは、さなぎの置き場所と温度、途切れさせない補充、農薬の選び方、そしてハウスの清潔さにかかっている。諸君が食べる一粒の整った形の裏には、こうした小さな羽音と、それを支える人の段取りがあるのだよ。

いちご博士
いちご博士

美しい実は、偶然には生まれぬ。見えない働き手を迎える準備こそが、一粒の形を決めるのだ。

オアシスくん
オアシスくん

ハウスで金色のハエを見かけたら、心の中で「ありがとう」と言います。明日からの受粉管理、気合を入れていきます!

参考資料

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