いちごを愛するすべての諸君。
定植から一か月。ハウスの株は日ごとに葉を広げている。ベテランは、この株の姿を見ただけで「今週は少し水が多かったな」「夜の温度が効いているな」と分かる。この「見れば分かる」域こそ、我々が目指す場所だ。
だが、そこへは一足飛びには行けない。人の目は、毎日少しずつ進む変化をそのままでは捉えにくいのだよ。だから、自分が組んだ環境コントロールが正しかったのかを、株の数字で確かめる。そして、目で感じたことと数字を毎週突き合わせて、少しずつ目を鍛えていく。その答え合わせの道具が、生育調査だ。
この記事では、伊丹で実際に教わった生育調査の考え方と測り方、毎週の記録の残し方をお伝えする。読み終えたとき、あなたが毎週ハウスで手にする定規が、株の声を聞く聴診器に見えてくるはずだ。

見えるようになるために測るのだよ。子どもの背丈も、柱に印をつけ続けた親ほど、やがて顔を見ただけで「伸びたな」と分かるようになる。
第1章:生育調査は環境コントロールの「答え合わせ」である
1.1 1週間の環境の『答え』を株に聞く
生育調査は、日々の環境コントロールの答え合わせだ。今週はこういう温度で、こういう光の中で、こういう水と肥料で育てた。その管理が株にとって正解だったのかを、株自身に答えてもらう。
その答えを読む指標として、週に1回、株の身体測定を行う。草丈はどれだけ伸びたか、葉はどれだけ大きくなったか、根元のクラウンはちゃんと太っているか。
環境の数字(温度・日射・EC)は「株に何を与えたか」の記録だ。生育調査は「株がそれをどう受け取ったか」の記録になる。この二つがそろって初めて、管理が正しかったかを振り返れるのだよ。
1.2 『同じ曜日・同じ時間』が物差しを守る
答え合わせをするには、毎回同じ物差しで測らなければならない。だから測るのは1週間に1回、同じ曜日の、なるべく同じ時間だ。そうすれば「先週より葉が大きくなろうとしている」「縮こまって元気がない」という変化が、比べられる形で残る。曜日や時間がばらばらでは、株の変化なのか測り方の違いなのか、区別がつかなくなる。
1.3 『見れば分かる』に近づくために
伊丹で教わった言葉の中で、私が最も重く受け止めたのはこれだ。生育調査の目標は、「見れば分かる」に近づくことにある。「見れば分かる」がだめなのではない。そこへ近づくために、数字という客観のデータを取り、自分の目で見た「元気そう」「弱っていそう」という主観と結びつけていくのだ、と。
数字だけを見ていては株を見失う。目だけを頼れば思い込みに流される。指標をとりながら観察し、両方を突き合わせ続けるうちに、「この葉の色なら、来週はこのくらい伸びる」と見ただけで分かる目が育っていくのだよ。

生育調査は答え合わせ、身体測定はそのための指標、目指すのは「見れば分かる」。だから数字と、自分の目で感じたことを、必ず並べて記録するのだ。

数字と見た感じをセットで残すんですね。曜日を決めるところから始めます!

測る株は、一番元気な株にしたほうがデータもきれいになりそうですよね?

愚問だな。選手一人の成績で、チーム全体の調子は測れない。選ぶべきは、一番「ふつう」の株だ。
第2章:どの株を測るか —— ハウスの『代表選手』を選ぶ
調査株は、ハウス全体の「代表選手」でなければならない。調査株の数字でハウス全体の答え合わせをするのだから、群れを代表しない株を測れば、答え合わせそのものが狂ってしまうのだよ。代表選手は、次の順で選ぶ。
2.1 場所は『ハウスの中央』
一番端の列はカーテンの影になりやすい。窓側やサイド側は温度が下がりやすい。こうした場所の株は、ハウス全体とは違う環境で育っている。だからハウスのなるべく中央部分から選ぶ。
2.2 株は『中央値』を選ぶ
次に、その中から全体の中で一番アベレージに近い株を選ぶ。何株か見比べて、真ん中あたりにいそうな株だ。
- 強すぎる株を選ぶと:調査のデータは良いのに、ハウス全体では思ったほど収量が取れなかった、ということが起きる。
- 弱すぎる株を選ぶと:調査のデータはほとんど変わらないのに、ハウスを見たら株が勢いづきすぎていて、手を打つのが遅れる、ということが起きる。
どちらも、物差しが群れを代表していないために起きる失敗だ。

2.3 まずは『品種ごとに1株』から
伊丹でも、初めての調査では品種ごとに1株を選ぶところから始めていた。選んだ株には目印をつけ、毎週必ず同じ株を測る。株を途中で変えれば、グラフの線はそこで別物になってしまう。

端を避けて中央から、強すぎず弱すぎない一株を。そして一度決めたら、同じ株を測り続けるのだ。

何株か見比べて「ふつうの子」を選びます。目印も忘れずにつけます!

測る項目って、いくつあるんですか?

5つだ。数は少ないが、どれも株の別々の臓器を診ている。一つずつ見ていこう。
第3章:5つの項目の測り方
展開葉数・クラウン径・草丈・葉長・葉幅の5つは、それぞれ株の別々のところの答えを教えてくれる。だから測り方より先に、「何を見るための数字か」を覚えてほしい。理由を知らずに測った数字は、ただの数字のまま終わる。
| 項目 | 何を見ているか | 道具 |
|---|---|---|
| 展開葉数 | 1週間にどれだけのスピードで葉が展開しているか | 目で数える(葉に印をつける) |
| クラウン径 | 根がどれだけ張っているか | ノギス |
| 草丈 | 栄養成長と生殖成長のどちらに傾いているか | 定規 |
| 葉長・葉幅 | 葉の面積を確保できているか | 定規・メジャー |

図の葉番号について:番号は定植してから続ける通し番号だ。図の「いちばん古い葉が1枚目」を、毎回1から数え直す意味に受け取らないでほしい。葉かきで1・2枚目を取ったら、残った葉は3枚目以降のまま。9枚目まで育っていれば、記録は9枚だ。
3.1 展開葉数 —— 葉が出る『スピード』を見る
展開葉数で見るのは、株が1週間にどれだけのスピードで葉を出しているかだ。だから記録するのは、「今、何枚あるか」ではなく、「定植してから何枚目まで育ったか」になる。
定植したときに株に付いていた葉も数に入れる。いちばん古い葉、つまり株のいちばん外側に付いている葉を1枚目として「1枚目、2枚目、3枚目……」と番号をつけ、そのあと新しく葉が開くたびに番号を続けていく。記録するのは、いちばん新しく開いた葉の番号なのだよ。
たとえば、9枚目の葉まで開いたら、記録は「9枚」。そのあと古い葉を2枚取って、株に7枚しか残っていなくても、記録は「9枚」のままだ。次の葉が開いたら「10枚」。葉かきをしても、番号は戻さず続ける。今ある葉に1から番号を振り直してはいけない。
難しいのは、まだ開ききっていない一番新しい葉の扱いだ。伊丹では、開きかけの葉を小数で数える。10枚目が開きかけなら、開き具合に応じて9.5や9.8と記録する。
ここで大切なのは、9.7か9.8かを正確に当てることではない。基準は自分で持っていい。ただし、毎回その基準がぶれないこと。先週は甘く、今週は厳しく数えれば、増えた枚数は嘘になる。印をつけた葉を目安にすれば、翌週も同じ数え方を続けやすいのだよ。

3.2 クラウン径 —— 見えない『根』を覗く窓
クラウン径で見るのは、土の中の根がどれだけ張っているかだ。クラウンは主根の量に比例して太くなる。根は見えないが、しっかり張れば、その証拠は地上のクラウンの太さに現れる。クラウン径は、見えない根を覗く窓なのだよ。
測るのは、株元の、葉がすべて集まって出ている部分(クラウン)の太さだ。ここをノギスで挟んで測る。

3.3 草丈 —— 株がどちらを『向いて』いるか
草丈で見るのは、株の「向き」だ。背が急に伸びたときは、栄養成長に大きく振れていることが多い。葉や茎を育てる方向に力を使いすぎ、実をつける生殖成長に向かっていないかもしれない。草丈は、株がどちらを向いているかを知らせる風見鶏なのだよ。
株の向きはその場所の群れ全体に出るから、測るのは調査株1本の葉先ではなく、その場所の株の群れ(群落)の一番高いところだ。地面(培地の表面)を0cmとして、そこから群落のトップまでの高さを測る。
道具は50cmほどの定規を用意する。100円ショップのもので構わない。毎週の生育調査では、定規の0cmを地面に当てて測る。
なお、毎日の写真の定点観測では、定規を10cmほど培地に刺して立て、写真でも読めるようにテープで目盛りをつけている。こちらは写真で株の変化を見るためのもので、草丈の記録とは別の使い方だ。

3.4 葉長・葉幅 —— 光の『受け皿』の大きさ
葉長と葉幅は、葉の面積、つまり光を受け止める「受け皿」の大きさを確保できているかを見る。測るのは一番新しい葉から数えて3番目に若い葉だ。一番内側の新しい葉が1番目、その次が2番目、その次が3番目。この3番目の葉の長さと幅を測る。

こうして5つの数字を毎週記録し、今週の管理に株がどう答えたかを見続ける。それが生育調査だ。

葉の枚数はスピード、クラウンは根、草丈は向き、葉の大きさは受け皿。数字ごとに「何を診ているか」を忘れぬことだ。

ただ測るんじゃなくて、何を見ているのかを意識して測ります!

あれ? 葉かきのときは「完全に開いた葉で6枚残す」って聞きました。生育調査の「5.8枚」と数え方が違いませんか?

よく気づいた。違っていて正しいのだよ。目的が違えば、物差しも違う。
第4章:「6枚残す」と「5.8枚」は別の物差し
10月19日の栽培ミーティングで、「6.5枚のような小数の数え方が分かりにくい」という声が出た。もっともな疑問だ。ここで二つの数え方を整理しておこう。
| 生育調査の展開葉数 | 葉かきで「残す枚数」 | |
|---|---|---|
| 目的 | 1週間に葉がどれだけ進んだかを測る | 株に何枚の葉を残すかを決める |
| 開きかけの葉 | 小数で数える(例:5.8枚) | 数えない |
| 記録する数 | 定植してから、何枚目まで育ったか(葉の通し番号) | 今、株に残っている完全に開いた葉の枚数 |
| 葉かきをしたら | 番号は戻さない。9枚目まで育ったら、2枚取っても記録は9枚 | 取った分だけ、残っている枚数が減る |
| 今の時期の基準 | 毎週、同じ基準で記録する | 完全に開いた葉で6枚。6枚以下にしない |

生育調査の小数は、スピードを細かく追うための目盛りだ。一方、葉かきの「6枚」は、株に体力を残すための下限だ。今の時期は葉を残す側に置きたい。だから葉かきでは、開ききっていない葉を数に入れず、確実に開いた葉で6枚を守る。
葉かきのときに、小数の数え方を持ち込む必要はない。葉かきは「今残す葉の枚数」、生育調査は「何枚目まで育ったか。開きかけは小数で」。この二つを混ぜなければ迷わないのだよ。

葉かきは「今残す葉の枚数」。生育調査は「何枚目まで育ったか」。葉を取っても、生育調査の番号は戻さない。物差しを使い分ければ、どちらも正しく働く。

すっきりしました! 葉かきのときは開いた葉だけを数えます。
第5章:町田の毎週の手順
町田でも、この答え合わせを毎週回していく。測った数字と見た感じを、その週の環境の記録と並べて振り返る。これを続けることが、「見れば分かる」に近づく一番の近道だ。
5.1 毎週木曜日の流れ
- 毎週木曜日に測る:町田では髙田さんが担当する。なるべく同じ時間帯に測る。
- 調査株は7株:下の表のNo.1〜7。ハウスの中央部分から、全体の平均に近い株を選んで目印をつけ、毎週同じ株を測る。
- 展開葉数:定植してから何枚目まで育ったかを、葉の通し番号で記録する。9枚目まで育ったら、葉かきで2枚取っても記録は9枚。次は10枚目。開きかけの葉は小数で。自分の基準をぶらさない。定植したときに付いていた葉も数に入れ、いちばん外側の葉を1枚目とする。
- クラウン径:葉が集まる株元の太さを、ノギスで測る(mm)。
- 草丈:地面(培地の表面)を0cmとして、群落の一番高いところまでを定規で測る(cm)。
- 葉長・葉幅:若い順に3番目の葉を測る(cm)。
- 見た感じも書く:「元気そう」「縮こまっている」など、目で見た印象を一言添える。数字と並べ続けることで、目が育つ。
- 町田グループLINEで報告する:その日のうちに、1株1行で町田グループLINEに送る(送り方は5.3)。
- 線にして答え合わせをする:先週からの増え方(傾き)を見る。急に伸びた・止まった・下がったときは、その週の環境の記録と並べ、測り方のぶれも疑う。
5.2 町田の調査株(No.1〜7)
| No. | ハウス | 品種 |
|---|---|---|
| 1 | ハウス1 | 章姫 |
| 2 | ハウス1 | よつぼし |
| 3 | ハウス1 | 紅ほっぺ(三好) |
| 4 | ハウス2 | 紅ほっぺ(三好) |
| 5 | ハウス2 | 紅ほっぺ(ハイフラワー) |
| 6 | ハウス3 | 紅ほっぺ(三好) |
| 7 | ハウス3 | 紅ほっぺ(ハイフラワー) |
No.は株に固定する。途中で株を替えることになったら、替えた日と理由を町田グループLINEで一緒に知らせる。替える前と後の数字を同じ線につなげないためだ。
5.3 町田グループLINEで送る形
1行目に日付、2行目からNo.ごとに1行。数字だけを「/」で区切って並べる。
生育調査 [測定日]
1/展開葉[測定値]/クラウン[測定値]/草丈[測定値]/葉長[測定値]/葉幅[測定値]/[見た感じ]
(No.2〜7も同じ形で続ける。[ ]をその日に測った値や様子に置き換える)
測れなかった項目は空けておく。0と書くと「0だった」という意味になってしまうので、書かないこと。数字は上の例のように単位をつけずに送る(展開葉は枚、クラウンはmm、ほかはcm)。

株は言葉を話さない。だが、毎週同じ物差しを当て、自分の目と突き合わせ続ける者には、やがて見ただけで答えが分かるようになる。今週の記録は、その目を育てる一歩なのだよ。

定規とノギスを持って、今週からさっそく測ります。数字と見た感じを並べて、町田の株が「見れば分かる」ようになるまで続けます!









博士、毎日ハウスで株を見ているのに、わざわざ測る必要があるんですか?